IBEC 建築省エネ機構(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)

建築環境・省エネルギー機構理事長賞第7回サステナブル住宅賞(新築部門)

「春日の住宅」

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 撮影:太田 直

建設地 福岡県春日市
設計者 (有)エヌ・ケイ・エス・アーキテクツ
施工者 (株)河北建設
延べ面積 103m2
地上階/地下階 2/0
構造 RC造一部木造

講評

「春日の住宅」は、福岡県春日市の2階建て住宅が建ち並ぶ郊外住宅地に建設されており、在来構造による折板構造屋根が異彩を放つ。施主夫婦は建築環境・設備の専門家ということもあり、施主と設計者のコラボレーションにより高い環境性能を実現した、ユニークなサステナブル住宅である。
外観は1階がコンクリート、2階がグレーのガルバリウム鋼板で仕上げられており、一見閉鎖的な印象を受けるが、室内空間は水回り以外はワンルーム、内壁・天井は白色、床は木質系フローリングで仕上げられており、また随所にハイサイドライトが導入され、外観とは対照的に明るく、開放的である。更にワンルーム空間は、将来的な家族構成の変化に対応するため、間仕切り壁を設けておらず、家具で空間の連続性を確保しつつ仕切るよう工夫されている。一方、ワンルーム化によって、室内温熱・空気環境の不均一性や暖冷房のエネルギー消費量の増大が懸念されるが、この点は施主夫婦が専門家ということもあり、床下チャンバー方式の床吹き出し空調やエア搬送ファンを導入すると共に、1階RC部分の熱容量を活かした外断熱や熱損失の大きい開口部は面積を最小限に留める等の工夫により見事に解決している。更にワンルーム化のメリットである高低差を積極的に活かし、温度差換気による室内空気環境の制御を行っているが、外気取り入れのための換気窓の位置は気流シミュレーションに基づいて決定するという徹底ぶりである。斬新な折板屋根の形状も、構造、採光、周辺環境への配慮等の様々な要因を考慮しつつ、幾多の検討を重ねた結果であり、内と外の双方から眺めることによってその意図を理解できる。また開口部や庇の大きさ・形状も高度な日射解析による検証結果を参考に決められている点も評価に値する。
「CASBEE戸建-新築2016」を用いた評価によると、BEE=2.2のAランクであるが、この点は、不要で過剰な設備や手入れが大変なもの(例えば、外構に木を植える等)は極力取り入れないという施主の拘りを反映し、やや控えめなスコアである。しかし、本住宅では電気及び上水の使用量のみならず、室内温熱環境の測定・検証が入居直後から継続的に行われており、快適性を確保しつつ省エネ性を実現するための住まい方を施主自らが模索し、実践している点は高く評価できる。将来的な家族構成やライフスタイルの変化に対する対応を含め、今後の更なる住みこなしにも期待したい。

 

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