IBEC 建築省エネ機構(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)

理事長賞第3回サステナブル建築賞(事務所ビル部門)

「川本製作所東京ビル」

建築主(株)川本製作所
設計者(株)日建設計
施工者清水建設(株) 斎久工業(株) 中央電気工事(株)
建設地東京都豊島区
構造SRC造、一部S造
階数地上6階建
延床面積931m2

講評

 小規模ながら秀作と呼べる事務所建築物であった。
都市中心部に建つ多くの小規模ビルは、十分といえない限られた敷地や日影規制などによる階高の制約があるが、本作品も同様に厳しい制約条件の下、働きやすい執務空間と古くなった周辺環境の美化に貢献できる建物、建物使用者や訪問者、さらに地域に愛される建物は長寿命かつサステナビリティを確保する建物を実現している。
接道方位が北東であったために、延焼の恐れがある壁面には、ドレンチャー設備を設置して、接道部全面をサッシレス大判複層ガラスのファサードとして、昼光により机上面照度を十分確保しており、照明負荷を大幅に低減できるような計画が行われている。敷地の奥部の三角形状の部分に、コアや設備シャフトを配置して、接道部に面した領域を事務室として最大限の面積を確保していることと併せて、極めて開放的で明るい執務空間を実現している。しかも、人感センサー、照度センサー連動の照明器具を採用して、照明用電力消費の一層の削減を図っている。
周囲の人家に対するプライバシ-配慮、全面道路からの視線カットの観点から、ボトムアップブラインドを設置せざるを得ず、上昇時の羽根角度の調整が行われていないなど、昼光照明を活用し切れていない点が残念である。
商業地域と第一種中高層住居地域に跨っている敷地で地上6階建ての建築物を建設している関係で、階高が3.05mしか確保できなかったが、PCa床版の剥き出し天井、PCa床版を反射板とした照明器具の設置、及び収納家具上部にダクトスペースと吹き出し口を設置するオーバーヘッド空調等の工夫で窮屈さを排除している。
奥行きが8~13m程度であることから、殆どペリメータと考えて良い執務空間に対して、窓近傍の床吹出し、及び、オーバーヘッド空調で対応しているが、ダクトスペースさえ確保しがたい階高の建築物における空調システムとして、一つの模範解を提示している。複層ガラス採用による空調負荷の低減と相まって、オーバーヘッド空調からの吹出し気流だけで、ペリメータが快適な温熱環境を維持できている。
小規模建築物における最も一般的な空調方式である空気熱源HPパッケージを採用しているが、EAダクトに設置した排気ファンの発停、RAダクトに設置したMDの開閉角度調整により、外気冷房の可能とする設計を行っている。
また、給排水に関わる企業の建築物であることから、ドレンチャー設備、井水や雨水の雑用水利用、節水型衛生器具の全面的採用等、水に関連する設備も充実していた。
太陽光発電パネル、高効率の水熱源HPパッケージの採用等により、ゼロエネルギー建築として成立する可能性があることを考慮すると、大都市中心部に多数存在する小規模事務所建築物の一つのあるべき姿を提示していると言えよう。

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