IBEC 建築省エネ機構(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)

国土交通大臣賞第3回サステナブル住宅賞(改修部門)

「川越の家TERRA」

撮影:鳥村鋼一

建築主個人
設計者スタジオ・アーキファーム
施工者(株)高橋工務店
建設地埼玉県川越市
構造木造
階数2階建
延床面積131m2

講評

改修部門でのサステナブル住宅賞には「川越の家TERRA」が選出された。対象住宅は、旧川越街道沿いの江戸時代の新田開発を担った農家が連なる一角に位置する専業農家の「離れ」となる住宅である。母屋とは別に居住している若夫婦の住まいが子供の成長とともに手狭となり、使われなくなった倉を生かすこと、専業農家としての住まいの機能を住宅内に取り込むことをポイントに計画されている。少し近くを歩いてみると、街道に連なる町並みの各農家には母屋と並んで建てられた大きな倉があり、通りすがりだけでなくそこに住まう人々にもシンボリックな役割を果たしていることが理解される。対象住宅は近代農業の発展の中で機能を失ったこの倉の生きた再生をサステナブルに解決したものとなっている。
対象住宅の築100年を経た倉は外見的にもそのまま存続し、玄関、寝室として再生されて現代的な機能を与えられた。倉の再生にあって、地震などへの安全対策が施されることは無論であるが、江戸時代からこの地に続く農家の誇りの印として、家族自身が倉の改修にたずさわり、今後の維持管理も愛着に裏打ちされてサステナブルに行われる仕組みが仕掛けられている。倉の内部改修だけでは果たせない現代の専業農家としての住まいの機能は、倉の周りに倉の存在と調和して無駄なく与えられている。
住まいのエネルギー使用に大きな影響を与える照明や冷暖房などの人工的な調整は控えめに計画されている。室内は、深い軒と北向きの天窓など、窓と庇が上手に利用され、自然光の取り入れと日射の調整がなされている。居間に取り込まれた土間のほか、倉の土壁や屋根土など大きな熱容量を効果的に使い、両面開口による室内通気輪道の確保による自然通風、屋根面の緑化による照り返しの防止など、パッシブ手法を上手に利用した室内環境調整が行われている。賞の審査のための現地調査は1月に行われたが、倉の中の寝室はどちらかと言えば涼しめで、過剰暖房になりやすい現代住宅とは一線を劃す住まい手の見識を物語っていた。

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