IBEC 建築省エネ機構(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)

日本木造住宅産業協会会長賞第9回サステナブル住宅賞

「洗える家」

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建築主 個人
設計者 ARU田口設計工房 田口 隆一  一般社団法人 埼玉いえ・まち再生会議 小山 祐司
施工者 大野建設株式会社
建設地 埼玉県川口市
構造 戸建・木造
階数 2F
延床面積 160m2

講評

 近年、地球温暖化に起因すると推定される、線状降水帯の頻発やゲリラ豪雨の発生など、水害被害の報道を聞かない年は無いほどの状況となっている。「洗える家」は埼玉県川口市に建設された、延べ面積約160m2の2階建て木造軸組住宅であるが、その建設地の地名からも分かるとおり、荒川を含めた多数の河川に囲まれたエリアとなっており、内水氾濫、外水氾濫のいずれも危惧される地域となっている。
 本住宅は、上記のような立地上起こり得る自然災害に対応するため、「洗える」というこれまでの建築物の表現上使用されることがなかったキーワードを用いた提案となっている。具体的には、道路面から基礎上端までの高さを1m程度確保し、併せて電気設備関係を地盤面より高い位置に設置することにより、内水氾濫程度の水深では無被害となるような対策を実施し、より深い水没深さが想定される外水氾濫に対しては、浸水後に室内外及び壁体内を洗えるような設え(しつらえ)を講じた上、外皮性能UA値0.56 W/(m2K)、省エネ性能BEI 0.89、さらに長期優良住宅やCASBEEのSランクレベルの性能を持った住宅となっている。
 現在、頻発する水害に対し様々な対策の検討が行われているが、一般的には止水板や水密窓等の建物内部に「水」を入れない対策が主流となっている。しかし、壁体内部に多くの空隙を有し、かつ、形状や納まりが複雑な木造住宅では、長期的に完全な水密性を確保することが困難であることも想定されるとともに、通常時の劣化対策として重要な壁体内湿気の排出も行えないこととなる。そのため本提案では、想定される最悪の水害時には早期の住宅再建を目指すこととし、それにより避難所や仮設住宅など自治体の負担軽減による地域貢献に資するストックとなることも目指している。
 もちろん、本提案に係る住宅は、まだ水没の被害を実際に受けた訳では無いので、想定通りの結果、効果を得られるかは不明であるが、本仕様の開発、研究を行う一般社団法人埼玉いえ・まち再生会議と共に、さらなる知見の集積と進化した工法となっていくことが期待される。

 

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